アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~
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 ───喉がひどく乾いている。心臓の鼓動がいつもより一拍だけ速い。
 ライオネルが語った「旧友」。
 番と定められた相手。命と引き換えに外された首輪飾り。

(似ている)

 似すぎている。だからこそ考えたくない。

(あの父も……)

 言葉を思い浮かべた瞬間、胸の奥から湧き上がるのは怒りか嫌悪か、それとも恐怖か。

 鈴蘭の首輪飾り。あれを外した夜。
 冷たい体温、浅くなる呼吸。──仮死。

(あれは、、正しかったのか……いや、でも)

 答えは今も出ない。
 しかし、ひとつだけ明確な言葉が浮かぶ。

(渡せない)

 あの首輪飾りは誰にも奪わせない。
 鈴蘭の為ではない。
 この世界(リノ・フェンティスタ)の為でもない。

(……万理のためだ)

 彼女だけは誰の道具にも、誰の代替にも、誰かの次にもさせない。だから。たとえ王に求められても、理由を問われても、どれだけ責められたとしても。

「……お渡しすることは、出来ません」

 その言葉は偽りでも反抗でもなく、誓いだった。

「何故だい?」

 同然ながら即座にその理由を問われる。

「安全が確認できていないからです」

 責任と理性を前に出す嘘。
 王の前でも通用する冷静な建前。

「そうだろうね。しかしそうなると、それこそ君が所持していては…」

 ライオネルが解決策を出す前に畳み掛ける。淡々と感情を殺した声で。
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