アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~
 ハリが会議の間を退室した後、ジュストベルは空になったカップを見つめていた。

 ジュストベルはライオネルの旧友の最期と、首輪飾りの真実を知っている。したがって、ハリの沈黙が嘘ではない事。強く触れれば壊れる記憶である事。そして、その重さを背負う覚悟がある事を理解っていた。
 もし───自信が彼の師として踏み込めば、それは「導き」ではなく「介入」になる。
 故にジュストベルは態度を変えなかった。
 お茶を淹れる手つきは普段のままに、余計な感情は茶葉の奥に沈めた。

「……」

 数秒の間見つめたカップを、ジュストベルは静かに片付けた。


 ──────

 ───


 ───自室に戻り一人になった瞬間、少なからず疲弊している事に気付く。ハリは寝台に腰掛けながら、まだ少し顬に残る鈍い痛みにゆっくりと瞳を閉じた。

 ジュストベルが淹れるお茶の効果は大きい。
 これ迄何度。彼の淹れるお茶に、いや──彼自身にも助けられたか。
 この王宮でラインアーサの側近として役を与えられた際、様々な術や王宮での作法を指南してもらった師範であり、数少ない「大人として信じていた存在」。
 先程の淡々とした彼の態度は冷たい、ではない。恐らく失望した、でもない。ただ距離を保たれた感覚。

師範(せんせい)は……何も、聞かないんだな。昔ならもう少しだけ——視線で何かを問いかけてきた気がした)

 いつも通りのお茶の味。だから余計に感じる。
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