アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~
 ハリのともした(あか)りが朝の気配と共に消えるまで──もし仮に、この王宮に夜が訪れないとしても。
 それは、彼が背負う闇だ。自分が踏み込むべきではない。しかし、決して無視もできない闇。
 その距離を保つ事が、今の自分に出来る精一杯の誠実さだった。ラインアーサは一度だけ部屋の方を振り返り、何も言わずに歩き出した。


 友ではない。でも、信頼している───。

 深い榛摺色(はりずりいろ)の髪に、闇夜の様な漆黒の瞳を持つハリ。
 口数は少なく、本心は見せない。何処か壁があり、何時も冷静だが……それは本当の彼なのだろうか。いつか記憶が戻り、お互い本音で話す事ができるだろうか。
 直感で人を遠ざける事は出来る。それでもラインアーサはハリを側に置くと決めていた。
 理由は実に明確で、そして個人的なものだった。
 ハリが〝姉を探して国を出た少年〟だからだ。
 その一点が、ラインアーサの心を深く打った。

 イリアーナを失い〝捜し出したい〟という気持ちを抱えながらも動けなかった自分。その一方で、幼くしてすべてを捨て、姉を探す為に歩き出したハリ。
 自分は、彼ほど強くはなれなかった。
 だから尊敬し、共感がある。
 だからこそ、疑いきれない。

 姉を失うという共鳴。
 ハリが語る〝行方不明の姉 マリ〟。それは当時のラインアーサにとって、イリアーナという名を持つ〝空白〟そのものだった。
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