アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~

夜明け前の支度


 夜が深まるにつれて王宮は静まり返っていった。
 人の気配が引いて、空気が冷え込む。

 ラインアーサは廊下を抜ける途中、とある扉の前でふと足を止めた。


 ───床に、扉の隙間から細く光の線が漏れている。

 ハリの部屋だ。
 彼がラインアーサの側近として王宮に留まると決まった時から自室として使っている部屋。
 ほんの僅かな光だったが夜になると妙に目につく。必要以上に明るい様な気もする。
 眠れないのだろうか……。
 理由は分からない。聞こうとも思わなかった。
 ハリは聞かれる事を嫌う。特に弱さに繋がる問いを。
 議場での彼は冷静だった。言葉を選び、痛みを隠し、必要な沈黙を知っている。そんな顔をしていた。けれど、ラインアーサの胸に微かな引っかかりが残る。

 ───この光は、誰に向けたものでもない。
 誰かに見せる為でも、警戒でもない。
 ただ、〝消せない〟光だ。

 イリアーナを捜し出す旅の中、ハリと共に各国の宿を転々とした。同じ部屋で過ごす夜も、別々の扉を閉めた夜も、ハリの部屋の(あか)りは何時も朝まで残されていた。そんな事を思い出す。

 その理由も分からない。
 想像する事も、踏み込む事も、今はしない。
 それでも暗闇を恐れる者の気配だけは、不思議と伝わってきた。
 自分と似ているとは思わないが、まったく違うとも言えなかった。

 何かを守りたいと願う理由は、何時だって明確な言葉を伴う訳ではないからだ。
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