アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~
 生きている、そう信じている。でもどこにいるか分からない。思い出す度に胸が痛む。
 それ故に、ラインアーサはハリの記憶が戻ることを恐れてはいない。むしろ、思い出せるならたとえ辛い記憶でも、共に前に進もう。そう願っている。
 同じく姉を失った弟としての祈りに似た願い。
 表情に色がないのは彼が孤児であるせいだろうかと考えもしたが、それは違っていた。
 
 ───ルゥアンダ帝国の皇子。
 
 ライオネルの口からその言葉が出た時、驚きよりも納得の方が先だった。そうなのだろうと腑に落ちた。「可能性が極めて高い」と加えられたが、恐らくハリは帝国の皇子だ。
 立ち居振る舞い。無意識の距離感。
 己の命や立場を軽く扱う様な、諦観。それらが一本の線で繋がる。「皇子だったから」ではなく〝そういう環境で生きてきた者の影〟なのだと理解する。
 同時に痛みがやってきた。胸の奥が静かに痛む。
 皇帝の子と言う立場が、必ずしも幸福ではない。
 自分は両親の愛を受けて育った。ハリは、そうではなかったのだろうか。邪推したい訳ではなく、それが分かってしまうからこそ立場の差とは別の、生への重さの差を感じてしまう。
 そして怒気が滲む。その怒りは、皇帝 ジャコウへと向かっていく。子を持つ者が、我が子を道具として扱った……それはラインアーサには理解し難く、最も忌む在り方。しかし今更どうにか出来る問題でもなければ、他国の文化や慣わしも全く違う───。
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