アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~
 姉イリアーナには、オゥ鉱脈都市の地下で長く世話をしてくれた女性を侍女として呼び寄せた。壊滅状態だったオゥを立て直しつつあるブラッドフォードも、折を見てシュサイラスアへ招くことになるだろう。
 イリアーナはもちろん、自分もまたブラッドフォードとの久方ぶりの再会を楽しみにしている。
 そして本日の議場にて、ジュリアンの覚悟を知った。あれ程迄に望んでいた王宮警備隊への配属。ジュリアンはその警備ではなく「側近として、同行する」と言った。軽い気持ちで挙手した訳では無い事位、ラインアーサが一番分かっている。
 
「俺は、それに値するだろうか」

 だが彼は、迷いなく言った。ならば揺らぐ訳にはいかない。皆、前へ進んでいる。では、自分は。
 皇子であるハリと、どう向き合うべきなのか───。


 ラインアーサはとある部屋の前で足を止めた。
 本日の王宮作法の授業が終わる頃合いを見計らいスズランを迎えに来たのだ。
 教場の扉の向こうから、微かな笑い声が聞こえる。
 ジュストベルの穏やかな低音。リーナとサリベルの軽やかな相槌。そして───スズランの弾む様な声。ほんの少しだけ躊躇する両足。
 王宮の顔ぶれに彼女はもう溶け込み始めている。
 ……中には、ジュリアンもいるのだろう。授業を終えたあとの雑談。穏やかな空気と守られた時間。
 胸に浮かぶ安堵と名状しがたい小さな寂しさを飲み込み、扉を叩く。ラインアーサはゆっくりと扉を開いてにこやかに口を開いた。
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