アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~
「スズラン、迎えに来たよ」

 その声を聞いたスズランはぱっと顔を上げた。不安も緊張も全部溶かしてしまう様に。

「ライア!」

 声がより弾む。『今日も頑張ったよ』言葉にしなくても、そう伝わる笑顔。
 その顔を見た瞬間、ラインアーサの胸の奥の寂しさは静かに消える。迎えに来てよかった……と、こちらまで頬が緩んでしまう。
 そこですかさずジュリアン。

「毎日お迎えとは流石です、殿下。お熱いですね〜」

 いつもの軽い調子。だが瞳は真剣だ。
 ラインアーサは肩を竦める。

「当然だろう。大切な教育の成果を…」

「成果、ですか? それとも──」

「余計なことを言うな」

 二人の掛け合いで教場が和む中、サリベルは柔らかく言う。

「スズラン様は本当に飲み込みがお早いのです。王宮礼法も一度でほとんど覚えてしまわれて」

 リーナも我慢できずに身を乗り出す。

「それに所作が可憐で……! もう、歩くだけでお花が咲くみたいなんです!」

 アダンソン母娘の褒め攻撃に顔を真っ赤にするスズラン。隣でラインアーサは誇らしい顔を隠そうともしない。

「そんな…! ジュストベル先生はもちろん、サリベルさんやリーナさん達の指南がとても分かりやすくて…」

「スズラン様。わたくし達には敬語も敬称も不要だと仰っているでしょう? このことばかりは、何度でも申し上げますからね」

 サリベルは腰に手を当ててきりりと理性的に詰め寄る。
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