アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~
 用意されていた寝巻きに着替えて寝台(ベッド)に腰を下ろすと、ふかふかと程良く身体が沈む。ここの生活に多少慣れてきたけれど、王宮の立派で大きな家具はまだ少し落ち着かない。
 酒場(バル)にいた頃、自室の寝台(ベッド)は小さくてもっと固くて、夜になると遠くから微かに客の笑い声や陽気な歌声が聞こえてきた。

 ここは静かすぎるくらい──、本当に静かでまるで別の世界のようだった。

(わたし……ほんとうにここに居ていいのかな)

 幼い頃の記憶は少しずつ戻ってきている。それでもまだ、この場所が自分の居場所なのか分からない。
 スズランは小さく息を吐いた。

「……考えても仕方ないよね」

 眠くなるまで少しだけ。そう思い、ラインアーサから借りた書物を開く。頁をめくった指先が、ふと止まった。挟まっていたのは小さな押し花の栞。
 淡い紫の三色菫だ。丁寧に押し花にされ、薄い紙の中に大切に閉じ込められている。裏返すと、端に小さな文字が添えられていた。

 『リーナより、親愛を込めて』

「……リーナ、さんの」

 可愛らしい字に、思わず頬が緩みそうになる。
 けれど、胸の奥がくすぐったくざわめいた。
 こんなに丁寧な贈り物をするくらいだ。きっと、とても大切なものなのだろう。

 三色菫の花言葉は───確か。

「私を思って」

 スズランは栞を見つめたまま、栞が挟まれていた頁に視線を落とす。
 そこにはフリュイ人の特徴についての記述が並んでいた。
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