アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~
 ・・・フリュイ人のほとんどが一族の血を守る為、他種族とは滅多に交わらない。特に公族であるフルール一族は徹底して交わりを避けて来た為か古代種に近いのが特徴。

「フルール一族……」

 記憶を辿るも、まだはっきりとは思い出す事が出来ない。スズランは更に文字を読み進めた。その中の文面を読んで、一瞬息を飲んだ。

 ──香草や草花、果実の様な香気を放つのが公族の特徴
 ──その香りは、人を虜にする効力がある

「……」

 スズランの指先が、ほんの少しだけ震える。
 もし───ライアが自分に向けてくれる優しさが、この血のせいだったとしたら。もし、本当に大切な人が他にいるのだとしたら。
 昼間に見たリーナの姿が、頭に浮かんだ。王宮にも馴染んでいて、聡明で、最初からこの場所にいる人。
 それに比べて、自分は───。

「……だめ」

 スズランはふるふると首を振った。
 こんなこと、考えるべきではない。
 栞を頁に戻して本を閉じた。誤魔化す様に灯りを落として横になる。けれど胸の奥のざわめきは、なかなか静まってくれない。

 強い風が森の木々を揺らす音が僅かに聞こえてくる。何度か寝返りを打ってから、スズランは薄く目を開いた。
 窓から、淡い月の光が差し込んでいる。柔らかい光が床を静かに照らし、その明るさが寝台(ベッド)の端まで届いていた。

「……」

 胸の奥が、まだ少し落ち着かない。
 この先、ラインアーサと共に歩くと決めたのに、栞のことや、書物に書かれていた文字がどうしてもちらついた。それでも───瞼に残る温もりを思い出して、もう一度指先で触れる。

(ライア……)

 彼の名前を心の中で呼ぶ。
 窓から差し込む月明かりをぼんやりと見つめながら、ゆっくりと目を閉じた。

 スズランはその夜、浅い眠りを何度も繰り返すのだった。


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