アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~
 案内され、廊下を進む。踏みしめる足音がやけに静かに響く。
 重厚な扉の前で足を止め、呼吸を整える。扉の向こうでは人の気配が揺れている。
 その中に、確かに知っているものがあった。

「……行こう」

 誰に言うでもなく、そう呟く。
 コルトが頷きながら扉を開いた。

 ────広間に、静寂が満ちる。視線が一斉に向けられる中、ブラッドフォードは一歩、大きく足を踏み入れた。瞬間、空気が動く。
 静まり返った空間に、靴音がひとつ落ちる。最初に声を上げたのは……ラインアーサだ。

「ブラッド兄様…! 危険な中を来てくださったのでしょう……無事で何よりです」

 そう言って頭を下げかけたラインアーサを、ブラッドフォードはやわらかく制した。

「相変わらずだな、アーサは」

 くすりと笑う声にラインアーサは爽やかな喜色を浮かべる。

「当然です。貴方は、俺にとっても大切な人ですから」

 ラインアーサがオゥの地下街 シエリア へと訪ねて来てから数ヶ月ぶりの再会。それだけの時間なのに互いに背負ったものは、確かに増えている。
 ブラッドフォードはすっと視線を広間の中央──ライオネルの元へ向ける。そのまま一歩進み出ると、静かに片膝をついた。

「この度、オゥ鉱脈都市より馳せ参じました。ライオネル陛下に、謹んで拝謁の栄を賜り、深く御礼申し上げます」

 胸に手を当て、深く頭を垂れる。
 その所作は礼節に則ったものだが、堅苦しさを感じさせない自然なものだった。
< 65 / 71 >

この作品をシェア

pagetop