アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~
 今度こそ言葉を失う。
 記憶の中の姿よりも少しだけ細くなった輪郭。けれど、その優しい瞳は変わらない。
 そしてその隣には、成長した弟 カルセディの姿。強くなろうとした痕跡をそのまま残した顔だ。

「兄上……」

 そう呼ぶ声が耳に届き、ブラッドフォードの中で張り詰めていたものが解けてゆく。
 一歩。また一歩、歩みを寄せる。堪えきれず声が震えた。

「本当に、無事で……」

 掠れる様な声。誰に向けたのかも分からない言葉。母が頷く。弟が涙を堪えながら笑う。それだけで充分だった。
 ブラッドフォードは、漸く理解する。
 失ったと思っていたものは、全て消えたわけではなかったのだと。静かに噛み締めた───。

 抱き合う声が、広間にやわらかく響いていた。
 互いの笑い声。涙を含んだ言葉。
 何度も名前を呼び合うその温もり。

 その光景を少し離れた場所から見つめる者がいる。この時間を壊さぬ様にラインアーサは、そっと息をついた。胸の奥が、じわりと熱を帯びる。
 ───よかった。それ以上の言葉は要らなかった。こうして無事に再会できた事が何よりも尊くて。
 視線の先で、ブラッドフォードが穏やかに笑っている。彼は昔からそうだった。誰かを安心させる様に、そっと笑う。
 ブラッドフォードに寄り添い、心からの笑顔を見せるイリアーナ。そんな二人を見てリーナも漸く安堵の表情を見せていた。

(……やっぱりすごいな、ブラッド兄様は)

 憧れに似た感情が胸におりる。
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