アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~
 スズランもまた、ラインアーサの隣で嬉しそうに微笑んでいた。その横顔を見て表情が緩むと同時に、暖かい感情がいっぱいに広がっていく。

 だが、その空気とは明らかに異なる視線があった。
 少し離れた柱の前で、ハリは腕を組み静かにその光景を注視している。感情の見えない、冷えた瞳。
 歓喜も、安堵も、そこにはない。
 ただ観察する様に。切り離された様に。


(……随分と、出来た話だな)

 胸の内で乾いた声が落ちる。
 失われたはずのものが、こうして戻ってくる。
 家族も、居場所も。まるで最初から用意されていたかの様に。
 ハリの視線が無意識に移る。
 ラインアーサとスズランへ。
 そして再び、あの〝光の中心〟へ。

(……眩しい)

 ぽつりと心の端で呟く。
 それが羨望なのか、苛立ちなのか──自分でもよく分からない。その時。
 ふと、ラインアーサがこちらを向いた。
 一瞬、視線がぶつかる。ほんの少し瑠璃色の瞳が強さを増す。ただ、此処にいる事を認める と言わんばかりの眼差しだ。
 ハリは、視線を逸らした。
 光の届く場所と、その外側。
 同じ空間にいながらも、決して交わらない温度がある様に思えた───。


 抱擁の余韻が、まだその場に残っている。
 愛するイリアーナの歓声。母の涙。弟の安堵。
 その全てを受け止めながら──この幸福な時が永遠に続く様にと祈りながら。
 不意にブラッドフォードの視線が僅かに外れる。
 広間の柱の前。そこに立つ、一人の青年。

(……あれは)
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