アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~
 ブラッドフォードの表情が刹那的に消える。

 似ている───。顔立ちではない。
 纏う〝気配〟が。忘れようとしても消えない。
 ルゥアンダ帝国の、あの血の気配。

 しかし次の瞬間には何事もなかったかの様に、柔らかな表情へ戻る。歓喜の涙をうかべるイリアーナの肩にそっと手を添た。

「……大丈夫だよ。もう、ここにいる」

 優しい声は一切の揺らぎを、見せない。

(今は、違う)

 やっと再会出来た家族を、これ以上不安にさせるわけにはいかない。その判断は迷いなく下されていた。



 *   *   *



 場が落ち着いた後、人払いされたライオネルの執務室にて。ブラッドフォードは静かに口を開く。

「……ひとつ、お伺いしてもよろしいでしょうか」

 その声には先程までの柔らかさとは別の、芯の通った緊張があった。

「疑問に感じた事があれば、何でも」

 そう促すのはライオネルだ。その傍らでラインアーサも息を飲んだ。

「先ほど、広間の柱際にいた青年……あれは、ルゥアンダ帝国の皇子ではありませんか」

 空気が、止まる。
 ラインアーサの瞳が揺れる。
 ライオネルは静かに瞼を伏せた。

「……やはり、そう見えるか」

 低く、落ち着いた声。
 その一言で〝疑い〟は〝確信〟へと変わる。

 かつて、リノ・フェンティスタにおける七つの国の間で執り行われる定例会議へ幾度となく出席していたブラッドフォード。その度、オゥ鉱脈都市へ向けられるのは、ルゥアンダ帝国からの露骨な圧力だった。
< 69 / 71 >

この作品をシェア

pagetop