アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~
 ハリが何を目的にこの国へ来たのか。
 もしもそこに偽りがあるのなら、これまで信じてきたもの全てが音を立てて崩れてしまう。
 それでも。違うと、信じたい。


 
 *   *   *



 叩かれた扉が開く。
 勿論「どうぞ」と返事をしたからだ。

 ハリはそこにいた。
 まるでラインアーサが来る事を分かっていたのかの様に、ゆったりと椅子に身を預けている。

「……夜分に、皆さんお揃いでどうなされましたか」

 穏やかな声を出す。いつも通りの仮面で。
 そんなハリをラインアーサは一直線に射抜き、言葉を発した。

「ハリ……率直に言う。お前は、何のためにここへ来た」

 沈黙。
 ハリは、ゆっくりと瞳を伏せた。

(やはり、真っ直ぐ来るか……)

 あからさまに息を吐いて見せる。

「……私は──ルゥアンダ帝国の〝血〟を引く者です」

 完全な肯定はしない。だが、否定もしない。
 顔を上げたその先の瞳は、静かだった。
 スズランの指先が小さく震える。
 ジュリアンの視線が鋭くなる。

「ですが、申し上げた通り……記憶は未だ曖昧でして。己の立場も、過去も……すべてを語れるわけではありません」

 ラインアーサは黙って聞いていた。しかし、読み取れない表情の奥に確かな揺れがある。
 ハリは一旦視線を外し、密やかにスズランの様子を伺う。弱々しくラインアーサの影に隠れているのかと予想していたが、視線は真っ直ぐにこちらを向いていた。
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