アーサ王子の君影草 下巻 ~約束の箱庭にて、再び~
 恐れとも違う、ただ言葉にできない何かを抱えたまま案じている。そんな眼差しだ。

「……では、答えられることだけでいい。答えてくれ」

 ラインアーサの声が静かに落ちた。

「この国へ来た目的が知りたい。お前は……敵か、それとも味方なのか? そして、スズランに、今後も危害を加えるつもりでいるのか」

 僅かに間を置くも瑠璃色の瞳は、やはり真っ直ぐとハリを捉えていた。

「……まだ、話していないことがあるんだろう?」

 ハリは片方の踵を椅子の淵に乗せ、片膝を抱えた。そしてゆっくりと言葉を返す。

「──目的は……ただひとつ。〝ある方〟の命により、この国へ」

 淡々とした口調で、だが明確に〝誰の命か〟は語らない。ほんの一瞬、言葉が滞りそうになった。その存在を、どう表現すべきか迷ったからだ。

「敵か味方か、という問いであれば……少なくとも、貴方がたに刃を向けるつもりはありません。スズラン嬢に危害を加える意図は、皆無に等しいでしょう」

 肯否性のない曖昧な答え。
 最後の答えだけ、僅かに語尾を強めた。

「……申し訳ありませんが、これ以上は」

 軽く顬を抑えながら静かに言葉を切る。

「……ハリ」

 小さく名前を呼ばれる。
 責めるでもなく、問い詰めるでもない。
 それでも、その声は静かに愁いを帯びていた。
 まるで、その最奥にあるものを見てしまったかの様に。
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