可愛い子供に一生を捧げると決めたので、王子殿下との結婚はお受けできません。
③
姉は育児から解放され、自由な日々を謳歌している。
「結婚すれば最低限は相手に合わせないといけないから、今くらい好きにしてもいいでしょう?」
両親に甘えては遊びに出かけている。
アメリーのことは、まるで視界に入らないようだった。
「お姉様、昨日アメリーが一人で立ちました」
そんな風に成長を伝えても「へぇ」くらいしか返ってこない。アメリーを手放してからは、私とも目も合わせてくれなくなってしまった。
やはりアメリーと離れたのを悲しんでいるのかしら。
父の命令とはいえ、私に出来ることはしてあげたい。
例えば、アメリーの成長を伝えるのはどうかしらと閃いたのだ。
それからは、姉が同席している食事時や、出かける姉と廊下ですれ違った際に、些細な変化を伝えるようにしみてた。
けれど、それは余計なお世話だったらしい。
「お姉様、今朝はアメリーが……」
「五月蝿い!! 何が言いたいのよ!! 子供をあんたに押し付けてるって抗議したいわけ? もう、私に話しかけてこないで頂戴!!」
「そんなつもりは……私はただ、お姉様がアメリーの成長を知りたいかと……」
「興味もないわ、そんなこと。私はローレン家に嫁ぐ身。子供になんて構っていられないのよ」
あれだけ両親を説得して産んでもこれかと、寂しくなった。
もう、あの人はアメリーの存在すら忘れてしまいたいのかもしれない。
それ以来、アナスタジアに話しかけるのをやめた。
大丈夫だ、以前に戻っただけじゃないかと自分に言い聞かせても、やるせなさからは解放されなかった。
約一年後アナスタジアは、アメリーが「ママ」と喋った翌日、カリストと結婚した。
姉がモンフォール家を去り、屋敷内が静かになるかもしれないと思っていたが、全くそんなことはなかった。
ヒステリックなところがあったアナスタジアから解放された侍女たちの笑い声が良く響くようになっていた。
(皆さんって、こんなふうに笑う方達だったのね)
内心、驚いた。
リラックスしていても、どこか張り詰めた空気を感じる。使用人とはいえ、優秀な人材ばかりだ。
そりゃ、私のような本の虫とは違う。そう思っていたのに、どこに行っても使用人たちは楽しそぅに仕事をこなしている。
問題は侍女ではない。私は、新しい困難に直面している。
これまでは姉がモンフォール家の人間として参加していたパーティーに、これからは私が出席しなければならなくなったのだ。
姉がいた頃は、「セレフィナが来ると妹だと紹介しなければならなくなるから欠席してほしい」と言われていたので、セレフィナはパーティーに行ったことがなかった。
それを寂しいとも思わなかった。もし自分が出席しても、完璧な姉の足手纏いにしかならないと自覚していたから。
なので「来ないで」と言われていたのは内心ホッとしていた。
これは完全に怠慢だったと言える。
もう周りはパーティーにも慣れているといった年頃になって、デビューするなど、それだけで自信は萎んで消える。
更に焦ってしまう理由は、最初のパーティーの主催者が、このアルガティア国の第三王子であるソレイス・ノエ・アルガティア王子殿下だと言うではないか。
そんな大規模な催しが私のパーティーのデビュー戦になるなんて……。
ソレイス王子殿下と接する機会はないだろうが、アナスタジアを知る人が私を見れば落胆するだろう。既にアナスタジアの代わりに妹が来るとは噂が出回っているようだ。
これまで姿すら見せなかった妹に、興味の目が向けられるとは十分予想できる。
行きたくない理由はそれだけではなかった。
ここ数日、アメリーの体調が良くなかった。侍女は風邪だと言って気をつけてくれていたけれど、パーティー当日になって高熱を出してしまったのだ。
「やはり今夜出かけるのは中止しますわ。アメリーが可哀想ですもの」
「その理由を旦那様がお許しになるとは思えません。私どもが看病しておりますので、ご安心ください」
「でも……」
ただのお茶会くらいなら断れたかもしれないけれど、余程の理由なくては欠席は失礼に当たる。ましてや、存在を隠している子供の体調不良など、言えるはずもない……。
「はぁ……セレス、準備をお願いします」
(こうなれば、一刻も早く帰られるよう仕向けるしかありませんわ)
初めての場所はどこであれ、緊張する。
アナスタジアの代役を務めなければならないというミッション付きなのだから、余計に。
「大丈夫、私は気配を消すのが得意ですもの。誰にも認知されないままやり過ごせばいいんだわ」
自分を励まし、アメリーを侍女に預ける。
「アメリー、早く帰ってきますからね。早くお熱が下がるといいですわね」
今、侍女に預けたばかりのアメリーにハグをする。
「お嬢様がアメリー様から離れられないでどうしますか。ほら、早く馬車にお乗りくださいまし」
「あぁ、お姉様の代わりだなんて、気が重いわ」
普段着ないような煌びやかなドレスを身に纏い、艶のあるブラウンの髪に鮮やかな花飾りをつけている。
自分じゃないようで落ち着かない。
浮かない足取りでパーティー会場へと向かう。
私がこのパーティーで運命の出会いがあることも、この時はまだ知る由もなかった。
「結婚すれば最低限は相手に合わせないといけないから、今くらい好きにしてもいいでしょう?」
両親に甘えては遊びに出かけている。
アメリーのことは、まるで視界に入らないようだった。
「お姉様、昨日アメリーが一人で立ちました」
そんな風に成長を伝えても「へぇ」くらいしか返ってこない。アメリーを手放してからは、私とも目も合わせてくれなくなってしまった。
やはりアメリーと離れたのを悲しんでいるのかしら。
父の命令とはいえ、私に出来ることはしてあげたい。
例えば、アメリーの成長を伝えるのはどうかしらと閃いたのだ。
それからは、姉が同席している食事時や、出かける姉と廊下ですれ違った際に、些細な変化を伝えるようにしみてた。
けれど、それは余計なお世話だったらしい。
「お姉様、今朝はアメリーが……」
「五月蝿い!! 何が言いたいのよ!! 子供をあんたに押し付けてるって抗議したいわけ? もう、私に話しかけてこないで頂戴!!」
「そんなつもりは……私はただ、お姉様がアメリーの成長を知りたいかと……」
「興味もないわ、そんなこと。私はローレン家に嫁ぐ身。子供になんて構っていられないのよ」
あれだけ両親を説得して産んでもこれかと、寂しくなった。
もう、あの人はアメリーの存在すら忘れてしまいたいのかもしれない。
それ以来、アナスタジアに話しかけるのをやめた。
大丈夫だ、以前に戻っただけじゃないかと自分に言い聞かせても、やるせなさからは解放されなかった。
約一年後アナスタジアは、アメリーが「ママ」と喋った翌日、カリストと結婚した。
姉がモンフォール家を去り、屋敷内が静かになるかもしれないと思っていたが、全くそんなことはなかった。
ヒステリックなところがあったアナスタジアから解放された侍女たちの笑い声が良く響くようになっていた。
(皆さんって、こんなふうに笑う方達だったのね)
内心、驚いた。
リラックスしていても、どこか張り詰めた空気を感じる。使用人とはいえ、優秀な人材ばかりだ。
そりゃ、私のような本の虫とは違う。そう思っていたのに、どこに行っても使用人たちは楽しそぅに仕事をこなしている。
問題は侍女ではない。私は、新しい困難に直面している。
これまでは姉がモンフォール家の人間として参加していたパーティーに、これからは私が出席しなければならなくなったのだ。
姉がいた頃は、「セレフィナが来ると妹だと紹介しなければならなくなるから欠席してほしい」と言われていたので、セレフィナはパーティーに行ったことがなかった。
それを寂しいとも思わなかった。もし自分が出席しても、完璧な姉の足手纏いにしかならないと自覚していたから。
なので「来ないで」と言われていたのは内心ホッとしていた。
これは完全に怠慢だったと言える。
もう周りはパーティーにも慣れているといった年頃になって、デビューするなど、それだけで自信は萎んで消える。
更に焦ってしまう理由は、最初のパーティーの主催者が、このアルガティア国の第三王子であるソレイス・ノエ・アルガティア王子殿下だと言うではないか。
そんな大規模な催しが私のパーティーのデビュー戦になるなんて……。
ソレイス王子殿下と接する機会はないだろうが、アナスタジアを知る人が私を見れば落胆するだろう。既にアナスタジアの代わりに妹が来るとは噂が出回っているようだ。
これまで姿すら見せなかった妹に、興味の目が向けられるとは十分予想できる。
行きたくない理由はそれだけではなかった。
ここ数日、アメリーの体調が良くなかった。侍女は風邪だと言って気をつけてくれていたけれど、パーティー当日になって高熱を出してしまったのだ。
「やはり今夜出かけるのは中止しますわ。アメリーが可哀想ですもの」
「その理由を旦那様がお許しになるとは思えません。私どもが看病しておりますので、ご安心ください」
「でも……」
ただのお茶会くらいなら断れたかもしれないけれど、余程の理由なくては欠席は失礼に当たる。ましてや、存在を隠している子供の体調不良など、言えるはずもない……。
「はぁ……セレス、準備をお願いします」
(こうなれば、一刻も早く帰られるよう仕向けるしかありませんわ)
初めての場所はどこであれ、緊張する。
アナスタジアの代役を務めなければならないというミッション付きなのだから、余計に。
「大丈夫、私は気配を消すのが得意ですもの。誰にも認知されないままやり過ごせばいいんだわ」
自分を励まし、アメリーを侍女に預ける。
「アメリー、早く帰ってきますからね。早くお熱が下がるといいですわね」
今、侍女に預けたばかりのアメリーにハグをする。
「お嬢様がアメリー様から離れられないでどうしますか。ほら、早く馬車にお乗りくださいまし」
「あぁ、お姉様の代わりだなんて、気が重いわ」
普段着ないような煌びやかなドレスを身に纏い、艶のあるブラウンの髪に鮮やかな花飾りをつけている。
自分じゃないようで落ち着かない。
浮かない足取りでパーティー会場へと向かう。
私がこのパーティーで運命の出会いがあることも、この時はまだ知る由もなかった。