愛しているのは私だけ⋯⋯
いたずらっぽく、上杉さんはヘッドホンを私から奪い、暫く聴いたあとで、

「シカゴだね。随分前の曲だけど、今の女子大生の間では、こういうのが流行ってるの?」

「いえ、そんなことはなくて、単に私が最近の流行歌には興味がないだけです」

「へぇ。僕も80年代の洋楽は好きだよ」

「そうなんですか?」

「兄がいるからね。君も?」

「私は一人っ子です。あの⋯⋯!」

これはチャンスだと思い、

「上杉さん、80年代の洋楽に詳しいなら、色々教えてくれませんか?」

厚かましいのは百も承知で、そう切り出した。

「詳しいっていうほどでもないけど、それでもよければ」

そう答えてくれた時の笑顔が目映くて⋯⋯ただの憧れから、恋に落ちてしまった。

図書館にもCDなら色々あったが、私物のCDを上杉さんは貸してくれ、図書館で会うたび、言葉を交わし合うように。

それが、何よりも楽しみだった。
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