あなた専属になります

胸騒ぎ

河内さんとの新生活がスタートして、数日。

私は異動先の勤務地に初出勤した。

都会のオフィスだからかもしれないけど、前の勤務地との雰囲気は大違いだ。

私は気を引き締めた。

会議室で新しい上司が来るのを待っていた。

暫く待って入ってきたのは、スラッとして、とても整った顔をした、どこか影がある男性社員だった。

「初めまして、課長の秋月です。宜しく」

「藤田と申します!宜しくお願いします」

頭を下げた。

「藤田さん、とても優秀な方だと聞いてるよ。期待してる」

優秀……プレッシャーが!

「頑張ります」

「じゃあ部署に案内する」

私達は会議室を出た。

あまり感情が読めない人だ……。

ついて行った先の新しいオフィスは慌ただしい様子だった。

「今は繁忙期だから大変だと思うけど、まず仕事に慣れるところからやっていこうか」

その後、グループの人に紹介されて、私の仕事がとうとうスタート。

「藤田さん、私がこれから色々教えていくね」

優しそうな女の先輩で安心した。

その日は仕事の流れを一通り教えてもらって、帰ろうとした。

オフィスから出てエレベーターホールに行く途中、喫煙室を覗くと秋月さんがいた。

虚な瞳でタバコを吸っていた。

その時目があってしまった。

私は会釈をしてすぐに立ち去ろうとした。

「藤田さん」

秋月さんが喫煙ルームからでてきた。

「今日はどうだった?」

秋月さんの瞳はさっきとは違って落ち着いていた。

「丁寧に教えて頂けたので、頑張れそうです」

彼はじっと私を見ている。

「どうしましたか?」

「君、ラウンジで働いてなかった?」

え……?

ここからあそこまでは結構距離がある。

なんで知ってるの……?

しかも3年前。

「いえ……働いてないです」

「"さくら"って子だったよね。間違いない」

秋月さんは少し笑んだ。

「人違いです」

私は来たエレベーターに直ぐに乗った。

胸騒ぎがした。
< 39 / 62 >

この作品をシェア

pagetop