あなた専属になります

過去からの視線

「なんでこんなに毎日遅いんだよ……」

新生活で早速ピンチに陥っていた。

「今繁忙期でして」

新しい職場で仕事が始まって早々、毎日夜遅くまで残業生活に。

「河内さんはもう寝てください。私の事は気にしなくていいので」

「優美が帰ってきてないのに無視できるわけないだろ」

「すみません」

河内さんはため息をついていた。

「仕事だから仕方ないが……」

申し訳なさすぎる。

「直ぐにお風呂入ってきます!」

私が急いで浴室に行こうとすると、

「優美飯食ってないだろ?」

キッチンに置いてあるお皿には、河内さんが作った料理がラップで包まれいた。

「ありがとうございます。私のためにわざわざ」

「料理は好きだから別に負担ではない」

私はダイニングで急いで食べた。

「美味しいです!」

二人でゆっくりするほんの少しの時間がとても幸せに感じた。

「三年ずっと連絡すら取れなかった時に比べたらまだマシだな」

そうだ。

あの時は孤独だった。

でも今は同じ場所で暮らしていて、毎日会える。

寝る前にキスをして今日を終える。

そんな毎日だった。

* * *

その日は会社で私の歓迎会が開かれた。

「藤田さん、お酒飲む?」

毎度聞かれるこの質問。

「すみません、飲めない体質なんです……」

毎度言わなきゃいけない答え。

その時、秋月さんが私の隣の席に座った。

「アレルギーなんだっけ?」

──やっぱりこの人は私を知っている。

「はい……」

秋月さんは日本酒を飲んでいる。

「あの時そう言ってたからね。ラウンジで働いてるのにお酒が飲めないって印象的だった」

記憶を辿っても全くわからない。

あそこでは客と上部だけで接していたから。

もう過去の話だし、もうこれ以上誤魔化しても無駄な気がする。

「あの時は借金を返済するために仕方なくやってたんです」

「そうか……そういう理由だったのか。」

喫煙室での虚な彼とは違って、温かい眼差しだった。

「借金は返したの?」

「いえ、まだですね……」

一緒に住んでいる恋人に借金を返しているという現状がいたたまれない。

「俺も払うの手伝おうか?」

「え?」

なんで?

「これは私個人の問題なので、気にしないでください」

「……冗談だよ」

秋月さんは少し笑った。

不思議な人……。

飲み会が終わった店からでたら河内さんから着信があった。

「はい」

「迎えに行くから場所教えて」

「結構遠いですよ……?」

「気にするな。」

私は暫く待ち合わせ場所の近くのカフェにいる事にした。

すると、秋月さんがついてきた。

「え、どうしたんですか?」

「……今一人になりたくないんだ」

「二次会行かないんですか?」

「……そんな賑やかなところにずっといたいわけじゃない」

その後、カフェの窓際でただ二人でコーヒーを飲んでいた。

まずい……これを河内さんに見られると色々問題がある。

「彼氏が来るの?」

「え!?」

「やっぱそうなんだ」

お見通しなのか……。

私ってわかりやすいのかな。

「どのくらい付き合ってるの?」

「えっと……離れてた期間もあるので、なんと言えばいいかわかりません」

「そうか」

その時なぜか秋月さんは少し苦しそうな顔をしていた。

「恋愛って、結婚する前が一番幸せだと思うよ」

唐突言われた言葉に何も言えなかった。

「じゃあ俺帰るよ。お疲れ様」

秋月さんは店を出て行った。

どういう意味なんだろう。

その時はよくわからなかった。
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