君の隣で
白い光が、霞のように漂っていた。
どこまでも続く空のような場所で、私はひとり立っていた。
風もないのに、髪だけがふわりと揺れる。
―――もうすぐだね。
誰かの声が、遠くで囁いた。
それは優しくて、どこか懐かしくて、心の奥を掴まれるような響きだった。
けれど、誰、そう聞こうとした瞬間、世界が砕けた。
目を覚ますと、そこにはいつもと変わらない天井があった。
「……夢、か」
私、神楽紗凪は小さく息を吐いた。
いつもの朝。だけど胸の奥に、なにかが引っかかる。
夢の中で聞いた声が、まるで現実のように残っていた。
窓の外では、春の風がカーテンを揺らしている。ゆっくりと起き上がり伸びをする。
腰まで伸びた自慢の黒髪が揺れる。
制服のリボンを結びながら、鏡の前で軽く髪を整える。
「……よし」
少し寝癖が残っているけれど、まあいっか。
家を出ると、春の風が頬を撫でた。
通学路には、いつもの景色。友達と笑いながら歩く声。
ふと、世界がほんの少し静かすぎるように感じた。
鳥の鳴き声も、遠くの車の音も、
すべてが一瞬、止まったような――そんな感覚。
「……?」
立ち止まった瞬間、風がふっと吹き抜ける。
音が戻る。何事もなかったように。
「気のせい、かな」
小さく笑って歩き出す。