一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは
「もう一回、アタックしてきます」
 ノートパソコンを小脇に抱え、私はふたたび三階へ乗りこんだ。効率男のもとへ。
 
 結果はまたしても惨敗だった。
 というか、すでに打ち合わせを申し入れて六戦全敗中。三度は私が三階に突撃し、一度は効率男が帰る間際を捕まえ。
 そして六度目。
 定時を過ぎたころ、彼が二階に別の用で訪れたところを追いかけたけれど――

「それより、同僚の夜食を買ってきたら」
 の言葉に、それどころではなくなった。
 頬がかあっと熱くなったときには、伸びあがって効率男の口元を押さえていた。

「黙って!」
「んぐぅ」

 効率男が目をみはるのをよそに、私は焦ってフロアを見回した。誰も聞いてないよね?
 さいわい、定時を過ぎてゆるんだ空気のおかげか、ちょっとした雑談で盛りあがっている一角もある。
 誰もこちらに気づいている様子はない。……よし。
 深く息をついたとき、ふいに手首をつかまれた。

「きゃっ」
「いや、なんなの。突然。殺気を感じたんだけど」

 手を下ろされて初めて、効率男の口を押さえたままにしていたのを思い出した。はっとしてあとずさる。
 つかまれた手の思いがけない力強さにどきっとしたのには気づかないふりで、私は効率男を見あげた。

「その話は今後いっさい禁止だから。ぜったい、誰にも言わないで」
「どの話。同僚に夜食を買うくらい、別に隠さなくて――」
「しっ!」

 とっさにふたたび効率男の口を押さえようとした手が、あっけなく取られる。

「その手にはもう乗らないけど」
「ぐ」

 しかたなく手を下ろす。
 効率男は嘆息すると、あっさり手を引いた。「じゃ」というそっけない言葉を残して帰ろうとする。

「待って! ……えっと」

 呼び止めたはいいけれど、どう切り出したらいいんだろう。
 考えあぐねる私に、効率男がため息をついた。
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