一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは
 もちろんラフ案なのでざっくりとしたものではあるけれど、新店舗のコンセプトがひと目で伝わってくる。
 早くもこの店に食べにいきたいという欲がむくむくと湧いてくる。
 感嘆のため息を漏らした私に満足したのか、吉見さんが勢いよくゼリー飲料を摂取する。
 たちまちぺたんこになったそれを手に、吉見さんがパソコンを閉じた。

「あっ、待って。ランチこれから? だったら、その時間にこのプランを元にした打ち合わせしよう! それなら時間の無駄にならないし!」
「もう食った」

 吉見さんがゼリー飲料をぶらぶらさせて立ちあがる。

「今から別件あるから。じゃ」

 ぽかんとする私を置いて、吉見さんの背が小さくなる。いやいやいや。
 資料の完成度の高さとか、仕事の速さとか、もちろんすごいと思ったけれども。
 そんなことより。

「お昼ご飯が、たったあれだけなの!?」

 吉見さんは、どこの世界の生き物なのよ?
 あまりにも私と生態が違う。
 だからこのときは、里緒の言葉のとおりに藪を突く機会が来るなんて、私はこれっぽっちも予想していなかった。



 
 何度目かのクライアント訪問を終えた、五月下旬。藪を突く機会は突然やってきた。

「……来ないな、野添部長」
「……だね」

 私たちは、シェ・ヒロセの前で途方に暮れていた。
 事の発端は、先週の部長のひと言だった。
 吉見さんとシェ・ヒロセの新業態店プロジェクトの進捗を報告した際に、味も知らずに提案するなと指摘を受けたのだ。言われてみればごもっとも。
 いくら新業態の別店舗といっても、シェ・ヒロセの血は流れるに違いない。
 シェ・ヒロセは一年先まで予約が埋まる人気店だ。
 けれど、野添部長の伝手で運良く予約を取ることができたので、三人でお邪魔することになったのだけれど。
 野添部長に電話すると、なんと急用で来られなくなったという。

「出直すか」
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