一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは
私だって、なにも気にせずに食べたい。
でも、冬眠前の熊が頭にちらつく。それに。
『お前と飯食うと、萎える』
吉見さんが萎えたら、なんだか申し訳ないとも思う。
視線が勝手に落ちて、またスプーンをぐるぐるさせる。
そんなふうにうだうだと考える私を、吉見さんは一刀両断した。
「あはは、でごまかすのやめたら。無理してるのが透けてて痛々しい。少なくとも、俺の前でごまかすのは無駄だから」
オブラートに包むことも、遠回しにすることもない。
いっそ感心するほど、心にまっすぐ針が刺さった。
でも、なんでかな。
痛みを感じるのに、なんだかくすりと笑ってしまう。それも、誤魔化すための笑いじゃない。
胸の内に、かすかに風が吹くのがわかる。
必死で守ってきたものをあっけなく崩されて、防御力が弱っていたのはたしかだ。
バレちゃったなら、どう取り繕ったってしかたないというのもある。
だけどそういう、諦念のまじった感情とは別の感情も湧きあがって。
――無理しなくていい。必死で守らなくたっていい。
もしかしてそう、言われてる?
私はスプーンをコーヒーから引きあげ、吉見さんをあらためて見つめる。
吉見さんは合理的で、人付き合いが悪くて、食への関心も薄くて。
だけど、他人の目に左右されず自分の意思を大事にするひとで。
今だって、彼なりのポリシーに沿って意見しただけだと思う。
それでも今このとき私にとっては、たしかに優しさと呼べるものだった。
いいの? と声に出さずに心の内だけで尋ねてみる。
引かない?
もちろん答えはない。
けれど、吉見さんの目に蔑みや嘲笑めいた色は見えない。
私は残りのコーヒーを飲み干した。
ミルクをたっぷり足したコーヒーはまろやかで、喉を優しく滑り落ちていく。
「とりあえず俺のデザート、要る?」
「要る!」
「即答なんだ」
吉見さんが喉の奥で笑いながら、デザートの皿を私に寄越してくる。
時間にすればほんのつかのま。
だけどたしかにそのとき、私は吉見さんの笑みに目を奪われていた。
でも、冬眠前の熊が頭にちらつく。それに。
『お前と飯食うと、萎える』
吉見さんが萎えたら、なんだか申し訳ないとも思う。
視線が勝手に落ちて、またスプーンをぐるぐるさせる。
そんなふうにうだうだと考える私を、吉見さんは一刀両断した。
「あはは、でごまかすのやめたら。無理してるのが透けてて痛々しい。少なくとも、俺の前でごまかすのは無駄だから」
オブラートに包むことも、遠回しにすることもない。
いっそ感心するほど、心にまっすぐ針が刺さった。
でも、なんでかな。
痛みを感じるのに、なんだかくすりと笑ってしまう。それも、誤魔化すための笑いじゃない。
胸の内に、かすかに風が吹くのがわかる。
必死で守ってきたものをあっけなく崩されて、防御力が弱っていたのはたしかだ。
バレちゃったなら、どう取り繕ったってしかたないというのもある。
だけどそういう、諦念のまじった感情とは別の感情も湧きあがって。
――無理しなくていい。必死で守らなくたっていい。
もしかしてそう、言われてる?
私はスプーンをコーヒーから引きあげ、吉見さんをあらためて見つめる。
吉見さんは合理的で、人付き合いが悪くて、食への関心も薄くて。
だけど、他人の目に左右されず自分の意思を大事にするひとで。
今だって、彼なりのポリシーに沿って意見しただけだと思う。
それでも今このとき私にとっては、たしかに優しさと呼べるものだった。
いいの? と声に出さずに心の内だけで尋ねてみる。
引かない?
もちろん答えはない。
けれど、吉見さんの目に蔑みや嘲笑めいた色は見えない。
私は残りのコーヒーを飲み干した。
ミルクをたっぷり足したコーヒーはまろやかで、喉を優しく滑り落ちていく。
「とりあえず俺のデザート、要る?」
「要る!」
「即答なんだ」
吉見さんが喉の奥で笑いながら、デザートの皿を私に寄越してくる。
時間にすればほんのつかのま。
だけどたしかにそのとき、私は吉見さんの笑みに目を奪われていた。