一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは
 席数の多くないレストランの中は、誰もがゆったりと談笑しながら食事を楽しんでいる。
 この瞬間、効率的なカロリー摂取を考えているひとなんていないはず。
 付け合わせの新じゃがのピュレまで満喫し、クールダウンにミントのシャーベットをいただく。
 二周目があればいいのに。
 もう一度、アミューズから出てくれたら。ううん、メインだけでもいい。もっと食べたい。
 いつまでも食べていたい!
 吉見さんの目には、これらもただのカロリー摂取源として映っているのかな。
 合理的ではあるけど、なんだかそれって……。

「食べにくい。目白さん、俺のこと見過ぎ」
「うわぁ、見てた? ごめん」

 パッと視線を手元に戻し、デザートに運ばれた、さくらんぼ入りの焼き菓子を口に入れる。
 と、吉見さんの声が追いかけてきた。

「そんなに食べたいなら追加注文すれば。経費で落とせるんだし」

 吉見さんがスタッフを呼ぼうとする。
 私はとっさに手を突き出し、吉見さんを止めた。

「食べないよ! そんなの、変に思われる」
「は? 誰に」
「それは……ほかのお客さんとか、スタッフさんとか……」

 吉見さんとか。

「でも食べたいんだろ。この前の夜食の量を見ればわかる。食べれば? ほかの客とか、関係なくない?」

 だって、と言いかけてのみこんだ。
 コーヒーを口に運ぶ。
 ここまでどれも美味しかったのに、コーヒーだけがやたらと苦く感じた。自然とうなだれてしまう。
 藪を突くまでもなかったな。

「私が大食いだって、気づいてたんだ」
「そりゃあ、あれだけ露骨に口止めされればなんとなく」
「だよね」

 コーヒーにミルクをさらに足し、意味もなくスプーンでぐるぐるとかき回す。必死すぎて墓穴を掘っていた自覚はある。

「別に、隠す必要ないと思うけど」
「うん、吉見さんの言うとおり。なんで気にするんだろうね? あはは」
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