さくらのかみさま
ある日。
雪吹きすさぶ山で、神様はひとりお困りになっていらっしゃいました。
日暮れまでに山を下り、宿にお泊まりになるご予定でしたが、
山の雪がひどく足止めを喰らっておしまいになったのです。
「何処か、何処か今日、寝る場所はないか」
困った神様が辺りを見回すと、
そこには、ほら穴がありました。
「あぁ、ありがたい。あそこなら雪もしのげよう」
神様はそうつぶやいてほら穴にとことこと入られました。
中は真っ暗です。
そして、
足元で何かふかりと言いました。

「あぁ、ありがたい。お布団もある。今日はよぉく眠れそうだ」
神様はそう思ってそのふかりに横になり、旅の疲れもあって、
すぐに眠ってしまわれました。
ところが、
「まぁ、この子はうちの子じゃないわ」
びっくりしたのは、その、ふかりの方でして、
そのふかりの正体は冬眠をしているくまの母子でした。
「あら、人間の子だわ。ぱくりと食べてしまおうかしら」
母ぐまがそう言って子ぐまの顔を見たら、
「お母さん、この子は人間じゃないよう。ほら、桜の振り出しを持っていらっしゃるじゃないか」
子ぐまが舌ったらずにそう言いました。
「おや、桜の神様だね。雪で山を下りられなかったんだね。
よしよし、お疲れのご様子だし、今夜は3人で寝るとしましょうか」
「そうだね」
母ぐまはそう言って、右手に子ぐまを、左手に神様を、
ぎゅうっと抱いて眠りにつきました。
「母上様……」
桜の神様の小さなつぶやきは誰にも聞こえません。

次の日。
神様は子ぐまに、桜の金平糖をひと粒あげました。
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