幼なじみは狐の子。5〜親衛隊と恋〜
「あ、恋」
恋が席に着くと、もう登校していた理央が恋の席にやって来て声をかけた。
「朝から凄いね。親衛隊?だっけ?ファンクラブだっけ?」
「宗介と樋山くんを見に来てるんだよね。」
「あの2人、すごい人気だもんね。壁新聞の写真、欲しいって言ってる人達の間で高値でオークションになってるんだって。加納先輩が荒稼ぎしてるって噂になってる。」
「新田さん、駒井、おはよう」
ファン達と少し話をした後、美風がやっと席について振り返った。
「樋山くん」
「白王子、おはよう」
「駒井、その呼び方辞めて。頭痛くなる。」
「なんで?。黒白王子の白王子でしょ。」
振り返った美風は机に頬杖をついて苦笑いした。
「そういやこの頃律ちゃんから恋の様子を知らせてくれってメールがよく来るよ」
「律から?」
「知らせなくて良いよ。あいつもお邪魔虫。もっとも、学校違うから、そんなに邪魔しに来れないけど。学校違って僥倖だよ。年下振ってすぐ新田さんに甘えるし。」
「律ちゃんは恋に直接聞くんだけど、返信が遅くてやきもきするから私にも聞くんだって。」
「ふーん」
「恋!」
後ろから鞄を置いてきた宗介がやって来て会話に加わる。
「樋山とは話すなっていつも言ってるだろ。なんでお前達の席が離れないのか癪。毎回くじ引きなのにいっつも樋山は恋の斜め前の席になるんだから。」
「僕たちは結ばれる運命だから。巡り合わせが離れられない良い宿命なんだ。僕はもう確信してる。」
「三角関係って微妙だけど、恋はうまく回ってるよね。」
それから理央が言った。
「ねえ、三角関係を三角関係のまま3人で過ごすと、恋の面白い思い出が格段に増えるよ。」
「駒井、余計な事言わないで。3人で過ごすなんかまっぴら。恋と2人きりが通常。それ以外はありえない。」
「駒井、それ新田さんの面白い思い出だけが増えるんでしょう。僕の面白い思い出は増えないよ。僕だって、新田さんと2人きりの方が良い。今度また誘うから、新田さん。」
「は?」
「やっぱ恋の取り合われる思い出増やそうよ。面白いじゃん。私記録するよ。」
理央がそう言った時、ガラガラと教室の戸が開いて、新聞部の伊鞠と桂香が入って来た。
「スクープ!」
恋達の居る席に向かって歩きながら、伊鞠は宗介に向かって叫んだ。
「何がですか」
「言っただけよ。元気が出る言葉なの」
怒り笑いしている宗介に、伊鞠が口を開いた。
「前から打診してあったけど、今日の放課後は講堂で黒白王子の撮影会を予定してるのよ。」
「……写真」
「おえ、嫌ですよ。前から言ってる。僕は出ませんよ。撮影なんかまっぴら。自分の顔そういう風に思ってない。ポーズ取れって言われるの腹立つ。要らない。やる気なんてない。」
「何回も言ってるけど、僕は写真を撮られるのが嫌いなんだ。写真に写った自分好きじゃないし、撮られるのは気恥ずかしいし疲れるし。そういうの楽しみにしてる人達馬鹿だと思ってる。新聞部の撮影会なんて出ませんよ。」
「そうねえ……」
伊鞠は考える顔をしてから言った。
「もし撮影会に来てくれるなら、新聞で姫の存在を高らかに誇らかに、煽るのはよすわ。」
「はあ?」
理央が納得顔で手を打った。
「考えましたね先輩。もし新聞で恋の存在が強調されたら、ヤキモチ焼いたファンがあーでこーであーでこーで、結果恋が攻撃されるって算段ですね。」
「……」
「なんでそうなるんだ。納得いかない。」
「新田さんを危ない目に合わせるわけにはいかない。写真は大嫌いだけど……。僕たちに選択権はないのか。」
宗介と美風がぼやくと、伊鞠と桂香がポーズを作った。