副業家政婦の仕事に『元彼社長からの溺愛』は含まれていないはずなのに
「では、早速事前資料をもとに軽くまとめてみたのですが……」

 案件の主担当である後輩の土岐(とき)さんが、私の横で事前に用意した資料をめくる。

 企画書には、D-ELICA(デリカ)株式会社の広告連動企画についてまとめられていて、ざっと目を通した限りだと、彼は飲食サービスを提供する会社を経営しているらしい。
 私でも聞いたことがある若者に人気のカフェやバー、ラウンジなどを経営しており、リーズナブルでありながらも高級路線の店づくりを行っているそうだ。

 特にバーやラウンジは、若者には敷居が高く入りづらい。
 そこで、価格設定を抑えめにしつつも内装を高級にした店づくりが功を奏したらしく、今では東京を中心に、大阪にも店を展開しているらしい。

 会社としては創業十年にも満たないベンチャーでありながらも、今日までの軌跡を見れば成功していることが一目でわかる。
 実はかなりやり手の経営者であることを知った私は、ますます彼との間に壁を感じた。
 というより、いろんな意味で反応しづらい。

(まさか、ここまで大きな会社を経営しているなんて……)

 あの日の別れから、随分と遠く離れたところに彼がいるような気がして、成功を喜ぶ一方で寂しい気持ちにもなる。
< 30 / 60 >

この作品をシェア

pagetop