代理お見合いに出席したら、運命の恋が始まりました~社長令息は初心な彼女を溺愛したい~

本日、お見合い日和

「はじめまして、西条(さいじょう) 八尋(やひろ)と申します。本日はお越しくださり、ありがとうございます」

 緊張して席に着く七海(ななみ)の向かいから、丁寧な挨拶がある。

 黒いスーツをピシッと着こなし、やわらかそうな黒髪を爽やかにセットした彼は、本日のお見合い相手である。

 顔立ちも非常に整っていた。

 涼やかな一重の目元に、スッと通った鼻筋。

 薄めのくちびるの形も良く、頬には微笑が浮かんでいる。

 前髪は軽く横に流されていた。

 第一印象から、とても好感を持てる見た目だったけれど……。

(あれ……? なんか、既視感……?)

 赤地に大きな花柄の入った振袖姿の七海が最初に思ったのは、それだった。

 会ったことがあるどころか、今回のお見合い話があるまで、彼の名前も知らなかったのに。

 でもそんなことを気にしている場合ではなかった。

 緊張を抱えながら、七海は小さくお辞儀をした。

 アップにした髪につけた髪飾りが、しゃらっと揺れる。

大平(おおひら) 一華(いちか)と申します。どうぞよろしくお願いいたします」

 でも名乗ったのは自分の名前ではない。

 この名乗りは、何度もイメトレをして、実際に口に出して練習もしたけれど、実際にお見合い相手を前にすれば、このお見合いが偽りのものなのだと強く実感してしまう。

(ああ、やっぱりこの方にも一華ちゃんにも悪いよ……。早く終わらないかな……!)

 微笑を浮かべつつも、内心ではそんな悲痛な思いが浮かぶ。

 それでも振袖の美しい花柄の上で、ぎゅっと手を握る。

(そのためにも、今日の場はしっかり振る舞わないと……!)

 強く決意した。

 泣き言を胸の中で言ってもなんにもならない。

 それならば、今日、この時間に自分に課せられた任務を遂行するまでである。
< 1 / 68 >

この作品をシェア

pagetop