代理お見合いに出席したら、運命の恋が始まりました~社長令息は初心な彼女を溺愛したい~

従姉妹の頼み

 こんな事態になった事情は、半月ほど前にさかのぼる。

「お見合い!? 私が……!?」

 春のうららかな陽気の日、急に実家へ訪ねてきた従姉妹からの打診に、七海は目を真ん丸にしてしまった。

「お願い! 七海ちゃんしか頼めないのよ~。私の顔を立てると思って! ね!」

 広い客間のソファで、向かい合って座っている女性……七海より二歳上の従姉妹は、こちらに向かって両手を合わせてくる。

 彼女は一華という名前で、七海とよく似た容姿をしている。

 背中まである茶色い髪は、さらりとしたストレートヘア。

 くりっとした丸い目元も、丸みを帯びた頬のラインも、それから身長や体格も……。

 特徴だけ挙げれば、ほとんどが一致する見た目なのだ。

 だから『代役』として、お見合いに出席してほしいというお願いである。

 ちなみに特徴は似ているものの、二人の服装や髪型などの好みはかなり違う。

 一華はかわいらしく凝った髪型にしたり、明るい色合いのファッションを好むタイプである。

 現在は華道教室で師範のアシスタントの仕事をしている職業柄、というのもあるだろうが。

 それに対して七海はどちらかというと、落ち着いた雰囲気の服を選びがちだ。

 髪も大抵、ヘアアイロンだけかけて、下ろしている。

 仕事はラジオ放送をしている会社の一社員だ。

 庶務を担当するほか、「声や喋り方が落ち着いていて良い」と褒められるので、簡単なアナウンスを収録されることもある。

 このように、働き方は二人ともかなり緩い。

 なぜなら二人の実家である大平家は、元・華族という家柄だからだ。

 それぞれ親戚からの伝手(つて)で就職し、結婚でもすれば辞める身。

 あくまでも若いうちの社会経験という意味での仕事なのである。
< 2 / 68 >

この作品をシェア

pagetop