代理お見合いに出席したら、運命の恋が始まりました~社長令息は初心な彼女を溺愛したい~
 そこで事態に気付いたホテルスタッフがやってきて、八尋が事情を説明する声が聞こえた。

 きっと床も、掃除か応急処置をしてもらえるだろう。

 誰の服も汚れなくて良かった、と改めてほっとしながら、七海は会場を出た。

 出口を出て、廊下を少し歩いたところに手洗いがある。

(近くて助かったな)

 中へ入り、水道の前に立つ。

 手を差し出して、自動で出る水で洗い始めた。

 ハンカチで拭いたものの、かかったのは、糖分を含んでいるジンジャーエールだ。

 水で洗わないと、ベタついてきてしまう。

 でも手を洗うのなんて、すぐだ。

 石鹸も出して、丁寧に手を洗う七海は穏やかな気持ちのままだった。

(それより八尋さん、なにか言いかけたみたいだったけど。なんだったのかな?)

 ドリンクが零れる前に、八尋がなにか切り出そうとしていたのを思い出す。

 そのときちょっと改まった感じだったのも思い出された。

(戻ったら聞いてみよう)

 七海は何気なく思い、手を洗い終えた。

 今度はハンドバッグに入れていた自分のハンカチで、しっかり手を拭く。

 ハンドクリームも軽く塗っておいた。

 それで手洗いを出て、ホールへ戻ろうとしたのだけど……このことで事態ががらりと変わるとは、まったく予想もしていなかった。
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