代理お見合いに出席したら、運命の恋が始まりました~社長令息は初心な彼女を溺愛したい~
「七海」

 その気持ちを察したように、玖苑が七海の頬に触れてきた。

 そっと持ち上げて、見つめてくる。

 七海の心臓は、喉奥まで跳ね上がった。

 目を丸くして、頬を赤くするしかない。

 この状況がなんであるかくらい、すぐ想像がついた。

 もちろんその通りになる。

 玖苑の大きな手は、七海の頬をすっぽりと包み込んだ。

 玖苑が七海の瞳を真っ直ぐに見つめて、やがてそっと顔を寄せてくる。

 七海はとっさに、ぎゅっと目をつぶっていた。

 ふわり、とやわらかなくちびるが触れて、重なり合う。

 ほんのりあたたかい感触は、今、この高台で感じている春風のように優しかった。

「……これからは、もっと俺だけを見ていてもらうから」

 数秒間だけのキスを解いてから、玖苑は顔をほころばせて、宣言した。

 これほど情熱的にそう言われたら、そうならない選択肢なんてないのに。

 七海は初めてのキスで熱くなり切った頬で、実感するしかなかった。
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