訳ありイケメンは棘持つ花に魅入られる
「残念なことに、その時は“大切な人”が待ってるからと言ってあなたは立ち去ってしまって。でもまたこうして運命的に再会することができました! しかも今日はクリスマスなのにあなたは1人ですよね? つまり僕にもまだチャンスがある」

「え、いえ、あの……」

あまりに勝手な言い分かつ勘違いぶりに、笑顔を作って応対しつつも内心ドン引きである。

要さんがカフェに来てくれることになっているけど、サッサとここは立ち去った方がいいかもしれない。

後から場所を移動した旨を電話すれば大丈夫だろう。

「確かに今は1人なんですけど、これから人と待ち合わせてるんです。待たせているので失礼しますね……!」

にこりと微笑んで会話を強制的に打ち切ると、私はさっそく踵を返した。

だが、男性に腕をグイッと引かれて動きを阻害されてしまい、その場で足踏みをしてしまった。

「あの、離してくださ――……」

「嫌です! 人と待ち合わせしているというのは作り話ですよね? 優しいあなたは僕を傷つけないために、ていよく断ろうとしてる。そんなあなただから僕は惹かれているんです! 僕は諦めません! 本気なんです!」

腕を掴んだまま、距離を詰めて一方的に言い募られて、さすがの私もほとほと困ってしまった。

断ろうとしていることに気づいているなら、そのままそれを受け入れて欲しい。

拒否しているのは伝わっているだろうに。

 ……「そんなあなただから惹かれる」とか、「本気」とか言われても。ただただ迷惑なんですけど!

何を言っても通じなさそうな相手にウンザリして、この際この男性が抱いているだろう“私”の印象をぶち壊してやろうかと真剣に思い始めたその時。

「――俺の恋人の腕からその手を離してもらえますか?」


色気溢れる落ち着いた低音ボイスを響かせた極上イケメンが、その場に降臨した――。


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