訳ありイケメンは棘持つ花に魅入られる
要さんからの電話を切ると、私は出入りの邪魔にならないようカフェの入口付近にある雑貨コーナーへ移動した。

なんとはなしにマグカップなどを見ていると、ふいに背後に人の気配を感じて振り返る。

てっきり要さんかと思っていたら、全然違う男性だった。

その男性はなぜか食い入るように熱のこもった瞳で私を見つめてくる。

なんとなく見覚えがあるような気がしなくもないが、たぶん知らない人だと思う。

「あの、今少しお時間いいですか?」

「私ですか? いえ、あまり時間はないんですけど……」

「僕のこと覚えてませんか?」

やんわり断ったのに男性は構わず言葉を続けてくる。

しかも知り合いであることを匂わす言い回しだ。

 ……はて? こんな人、知り合いにいたっけ? もしかしてフライトに乗ってたお客様とか?

心当たりがなくて首を傾げそうになっていると、男性は私の答えを待たずして、やや顔を赤らめ口を開く。

「数ヶ月前に品川駅でお会いした者です……! 僕があなたに一目惚れして、勇気を出して食事にお誘いしたんですが」

 ……ああ、確かにそんなこともあったっけ。

ボンヤリとその時の記憶が脳裏に蘇る。

確か『グチグチノート』を取りに行く道中で、すごく急いでいた時の出来事だった気がする。

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