訳ありイケメンは棘持つ花に魅入られる

なのに、なぜだろう。

ありえないほど胸が苦しくて、今にも張り裂けそうだ。

私の心が叫んでいる。

要さんと円香さんが恋人になるのは嫌だ、と。

 ……なにそれ。何考えてるのよ、私! それじゃまるで――……

『私が要さんに恋をしてるみたいだ』

浮かんできた事実に私は愕然とした。

いくら否定しようとも、それが紛れもない真実だと他でもない私自身が知っている。

最近無性にドキドキするのは、要さんに恋をしているから。

要さんの顔に思わず見惚れてしまうようになったのは、好きな人の顔だからこそより一層カッコよく見えるから。

円香さんの話を聞いて胸が騒めいたのは、好きな人の口から他の女性の話を聞きたくなかったから。

要さんへの恋心を認めれば、すべての辻褄が合う。

 ……ウソでしょ。今更自分の気持ちに気づくなんて……!

好きな人に好きな人ができたことが発覚したばかりなのだ。

最悪のタイミングと言っていい。

自分の気持ちを自覚した瞬間、失恋が決まったのだから。

 ……ダメだ。自覚した以上、これまでと同じように恋人ごっこなんてできない。

そんなことをすれば、どんどん気持ちが溢れていくに違いない。

要さんと会うこと自体控えた方がいい。

私はおもむろに掛けていた眼鏡を外すと、それを要さんに返す。

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