訳ありイケメンは棘持つ花に魅入られる

18. 佳境を迎えた新作の執筆(Side要)

理性が焼き切れそうになる、という経験を初めてした。

よく小説上でも“理性が保てない”、“理性が吹き飛ぶ”といった表現は目にするが、そんなのは物語の中だけで起こりうることだと思っていた。

実際に俺自身が30年生きてきて全く身に覚えがなかったのだから。

 ……まさかあんなに強い衝動に突き動かされて我慢できなくなるとは。クリスマスの時の比じゃなかったな。

よく耐え切ったものだと自画自賛しながら、俺は先日の出来事を思い返す。


◇◇◇


亜湖ちゃんが俺の自宅兼仕事場に来たあの日は、本当に色々な意味でおかしくなりそうだった。

まず亜湖ちゃんが家に来て、リビングのソファーに座っている姿を目にした時からヤバかった。

ここには自分達以外の人間が誰もおらず、本当の意味で俺と亜湖ちゃんの2人きりなのだと急に実感したのだ。

今までは外でデートしていたので、周囲に誰かしら人がいたし、こんな完全なる密室は初めてのことだった。

好きな女性と2人きりというシチュエーションに、自然と俺の胸は弾んだ。

そこから2人で読書に没頭する穏やかな時間を過ごした。

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