訳ありイケメンは棘持つ花に魅入られる
 ……あの日からもうすぐ1ヶ月か。

ノートを拾った『珈琲ろまん』で最初に出会ってから約5ヶ月。

これほど長く顔を合わせなかったことはない。

自分でも納得して距離を置くことにしたのに、溢れ出すのはため息ばかりだ。

俺は椅子から立ち上がり、完璧に整えられた清潔感のあるベッドの上にドサリと体を横たえた。

ホテル特有のパリッとしたシーツに皺が入る。

この1ヶ月、俺は都内にあるホテルで長期ステイをしていた。

もちろんそれには理由がある。

新作の執筆に集中するためだ。

プロットも完成し、物語に必要な情報収集も終わっている今、あとは締切に間に合うようにひたすら書き上げるだけの状態だった。

書香出版との話し合いで、すでに新作の刊行日も決まっている。

それに合わせて出版社側も、装丁家との調整なり、プロモーションなり、諸々すでに動き始めていた。

ここで俺が締切を過ぎるわけにはいかない。

色んな人に迷惑をかけないようにするためにも、なんとしてでも締切までに書き上げなければならないのだ。

ということで、ホテルに缶詰になっている。

「別に自宅にある書斎でいいじゃないか」というツッコミが聞こえてきそうだが、それはまさにおっしゃる通り。

でも今はあそこではダメなのだ。

なぜなら、亜湖ちゃんの影がチラつくから。

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