訳ありイケメンは棘持つ花に魅入られる
書斎だけでなく、リビングでも、ダイニングでも、自宅の至る所であの日の彼女の姿が脳裏に蘇ってくる。

そのたびに落ち着かない気持ちになり、とてもじゃないが集中できない。

そこで思い切って自宅を離れてホテルに執筆場所を移したというわけだ。

 ……今頃、亜湖ちゃんは何してるんだろう。ここ最近は国際線の乗務が続いて忙しいって言ってたから、今も海外かな?

会ってはいないが、メッセージのやりとりだけは変わらずしていた。

俺から送ればちゃんと返信を返してくれる。

でもメッセージだけでは物足りないとつい感じてしまう。

俺はどうにも欲深くなってしまったようだ。


「それにしても、条件の件はどうしようかな……」

誰もいない静かな部屋に、ポツリと零した俺のつぶやきが辺りに響く。

見返りとして亜湖ちゃんの望みを一つ叶えること、それが今俺が向き合うべき課題だ。

新作の執筆が佳境を迎えているため、一旦後回しにしているが、もちろん忘れてはいない。

もう少しで新作は書き上がる見通しだし、その後は課題へ意識を全振りするつもりだ。

今だって多少は考えている。

だが、「望み、望み……」と反芻するように口にすると、残念なことに脳裏に浮かぶのは俺自身の望みばかりだった。

すなわち、亜湖ちゃんと恋人になりたい、独り占めしたい、触れたい、という実に煩悩塗れの欲望だ。

< 148 / 204 >

この作品をシェア

pagetop