訳ありイケメンは棘持つ花に魅入られる
つまり私を待っている知り合いというのは、あの男性を指しているのだろう。

遠くてよく顔が見えないが、私に心当たりはない。

 ……訳が分からない! とはいえ、私を待ってるって言うし、万が一にも知り合いかもしれないから、とりあえず向かった方がいいよね?

私はペコリとマスターに頭を下げてお礼を告げると、テーブル席へ歩みを進める。

男性の座る席まで来ると、手元の本に視線を落とすその横顔に向かって声を掛けた。

「あの、すみません」

私の声にページを捲る手を止めた男性は、ゆっくりと顔を上げる。

その瞬間、バッチリと視線が重なった。

「あ、もしかして君が?」

そう呟いた男性の落ち着いた低音ボイスは恐ろしく色気のある、腰に響く声だった。

それだけでなく、クラッシックな眼鏡をかけた顔はとんでもなく整っている。

いわゆる眼鏡イケメンだ。

 ……誰? やっぱりこんな人、知らないんだけど!

「とりあえず、どうぞ座って」

困惑気味の私がその場に突っ立っていると、本を閉じてテーブルの上に置いた男性が、向かい側の席を勧めてくる。

これは新手のナンパだろうか。

私が笑顔のまま警戒していると、男性はいそいそと鞄からある物を取り出した。

「これのことでちょっと話がしたくて」

 ……それ! 私の『グチグチノート』!!

それは見紛うことなき私の相棒だった。

この2日間、なんとしても早く取り戻したかったものである。

 ……というか、なぜこれをこの人が持ってるの!?

謎すぎるが『グチグチノート』をチラつかされたら従わざるを得ない。

心境としては、人質を取られた気分だ。

私は話の主導権を取り戻してやるという心意気でニコッと愛らしい笑顔を男性に向け、大人しく向かいの席に腰を下ろした。



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