訳ありイケメンは棘持つ花に魅入られる
男性は自分のことをボロクソに貶して欲しかったわけではないようだ。

これでようやくドMの変態疑惑が解消された気がする。

 ……それにしても小説かぁ。しかも自作の。

私は改めて手元の原稿を眺めてみた。

小説だと思って見れば、先程は気づかなかったけど1枚目にタイトルが記されているのが分かった。

「恋人たちの晩餐……?」

「それ、恋愛小説なんだ。ただこのジャンルに挑戦するのは初めてで、自分で書いててもイマイチしっくりこなくてね。だから誰かから率直な意見を聞いてみたくて」

「あなた、小説家なんですか? それともただの趣味?」

「一応プロだよ。まあ、恋愛小説に関しては素人みたいなもんだけど」

 ……ふぅん、なるほど。プロの小説家かぁ。

第一印象から推測した通り、やっぱり普通の会社員ではなかったらしい。

デザイン関係か、ファッション・美容関係か、はたまたモデルか、という予想はハズレたけど、創作者という点ではまぁ遠からず近からずだろう。

「ていうか、そもそもなんで私に頼むんですか? 誰かに意見聞きたいだけなら、他にもいるでしょ。友人なり、プロなら担当編集者なりに頼めばいいんじゃないですか?」

男性の職業が分かり、正確な依頼内容を理解したところで、続いて私はもっともな疑問を投げかけた。

別に私じゃなくても良くない?と思ったからだ。


「いや、君がいい。君に頼みたい」
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