訳ありイケメンは棘持つ花に魅入られる
 ……いや、逆にだからこそ、なのかな? 今まで付き合いのある相手だったら、たとえノートを読まれたとしても、気まずすぎてここまでアッサリと開き直れないもんね。

「確かにお互い名乗ってなかったね。俺は葉山要(はやまかなめ)。君は?」

「私は来栖亜湖(くるすあこ)です」

今更ながらにお互いの名前を確認し合った後、その他の個人情報についても少し教えてもらった。

葉山さんは私より5つ年上の30歳。

今はプロの小説家として生計を立てているけど、その前は会社員だったそうだ。

ちなみに最近この辺りに引っ越して来たらしい。

「俺もそこそこ飛行機に乗る機会は多いんだけど、ここはアクセスが良くて便利そうだよね」

「そうですね。実際私もそれが理由で品川を選びましたし」

「通勤するなら尚更だろうね。それにこの喫茶店を見つけられたのもラッキーだったなぁ。居心地いいし、外で執筆したい時にちょうどいいし」

最後にそんなご近所さんトークを交わしつつ、残りのコーヒーを飲み干すと、私達は喫茶店を後にしたのだった。



そしてその翌日。

仕事がお休みだった私は、寝不足を補うように昼過ぎまでゆっくり寝た後、パパッと作ったパスタで遅めのランチを済ませ、例の原稿を手にソファーにもたれかかった。

昨日の今日だが、さっそく葉山さんの書いた小説を読んでみようと思ったのだ。

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