訳ありイケメンは棘持つ花に魅入られる
ちょうど手元のコーヒーカップも空になり、席を立つには良い頃合いだ。

私は先程のツッコミなんてまるでなかったかのように無視して、意識を切り替えるとニコリと微笑んだ。

「では、これで依頼は完了ということで! 花山粧先生、これからも素晴らしい作品を一読者として期待していますね。ご活躍お祈り申し上げます! それでは私はそろそろ失礼させて頂きますのでごゆっくり」

CAとして仕事中お客様対応をする時に使う万人受けする笑顔全開で、葉山さんに向かってそう告げると、私はすぐに椅子から立ち上がった。

時刻はまだ午後4時くらいだし、これから何をして過ごそうかなと呑気に考えながら入口に向かって歩き出そうとする。

でも残念ながら私は一歩を踏み出すことができなかった。

葉山さんに腕を引かれ、行動を阻まれたからだ。


「……まだなにか?」

「あんなに遠慮なくボロクソ言ってくれる来栖さんを見込んで、もう1つお願いというか、相談があるんだ。もう少しだけ時間くれない?」


こうして私は、なぜか再びこのイケメン売れっ子小説家の話に付き合うことになったのだった。


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