訳ありイケメンは棘持つ花に魅入られる
「書香出版の坂田です。申し訳ありません、花山先生。午前中にお電話頂いてたのに、折り返しが遅くなりました」

「いえいえ、お忙しいところ折り返しありがとうございます。電話したのがですね、先日お話ししていた取材の件なんです」

「あ、新作に向けた情報収集として取材したいところができたんですね。どちらです?」

「航空会社です」


俺はちょうど今まとめていたプロットに目を向けた。

その内容を眺めつつ、電話口で坂田さんへ簡単に新作の方向性を説明する。


「物語の舞台を飛行機の中にしようかと考えてるんですよ」

「飛行中の飛行機ってことですか?」

「そうです。それで飛行機の中で殺人が起き、一癖も二癖もある乗客の中から犯人を探すという密室ミステリーを想定してます」

「へぇ、面白そうですね! 今の説明だけでもワクワクしてきましたよ」

電話口の坂田さんの声は弾んでいて、お世辞ではなく、本気で面白そうだと感じてくれているのが伝わってきた。

このアイディアはごく最近思い付いたものなのだが、キッカケは他でもない現役CAの来栖さんだった。

最初に彼女の存在を目にしたのは飛行機の中だったし、個人的に会うようになった後も会話の中で仕事について聞くことも多い。

国内、海外を行ったり来たりしながら、毎日多くの乗客に接する彼女の日々を知るうちに興味を持ったのだ。

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