溺れるほど甘い、でも狂った溺愛


「……じゃあ、少しだけ」


わたしは胸のざわめきを抑えるように、深呼吸をして言った。

彼の目がぱっと輝く。


「ほんとですか!?」

「でも、あそこの街灯の下までです。それ以上はついて来ないでください」


少し離れた角の街灯を指した。

そこまでなら人通りもあるし、万が一のことを考えても大丈夫だろう。


「えっ……短っ!」


彼は子どものように声を上げ、あからさまに残念そうな顔をした。

でも次の瞬間、すぐににこにこと笑い出す。


「でも、それでもいいです!少しでも一緒に歩けるなら!」


(……この人、なんなの)


呆れながらも返す言葉が見つからず、仕方なく足を踏み出した。

隣に並んだ彼は、大型犬のように嬉しそうに歩幅を合わせてくる。


「おねーさんとこうして歩けるなんて、夢みたいです」

「……大げさですよ」

「ほんとですよ。あの日からずっと、また会いたいと思ってたんですから」


横顔をちらりと見て、思わず心臓が跳ねた。

街灯に照らされた横顔は、さっき店内で見たときよりもずっと近く、鮮明で。


その真剣すぎる眼差しに、無意識に視線を逸らした。

――これ以上見つめてはいけない気がして。

< 10 / 182 >

この作品をシェア

pagetop