溺れるほど甘い、でも狂った溺愛
「……じゃあ、少しだけ」
わたしは胸のざわめきを抑えるように、深呼吸をして言った。
彼の目がぱっと輝く。
「ほんとですか!?」
「でも、あそこの街灯の下までです。それ以上はついて来ないでください」
少し離れた角の街灯を指した。
そこまでなら人通りもあるし、万が一のことを考えても大丈夫だろう。
「えっ……短っ!」
彼は子どものように声を上げ、あからさまに残念そうな顔をした。
でも次の瞬間、すぐににこにこと笑い出す。
「でも、それでもいいです!少しでも一緒に歩けるなら!」
(……この人、なんなの)
呆れながらも返す言葉が見つからず、仕方なく足を踏み出した。
隣に並んだ彼は、大型犬のように嬉しそうに歩幅を合わせてくる。
「おねーさんとこうして歩けるなんて、夢みたいです」
「……大げさですよ」
「ほんとですよ。あの日からずっと、また会いたいと思ってたんですから」
横顔をちらりと見て、思わず心臓が跳ねた。
街灯に照らされた横顔は、さっき店内で見たときよりもずっと近く、鮮明で。
その真剣すぎる眼差しに、無意識に視線を逸らした。
――これ以上見つめてはいけない気がして。