溺れるほど甘い、でも狂った溺愛
街灯の下で立ち止まり、わたしは深く息をついた。
「ここまでです」
そう告げると、彼は素直に足を止めた。
でも視線は逸らさず、まっすぐにわたしを射抜いてくる。
「……あと、さっきも言いましたけど、そのイベントに出たのは、わたしじゃありませんから」
「いいえ。絶対におねーさんです」
またしても、即答だった。
声に一切の迷いがなく、その断言に思わず胸がざわめく。
「どうして……そんなに言い切れるんですか。たった一度きり会っただけなのでしょう?」
「……それでも、あの味を作った人のことを忘れるはずないじゃないですか」
彼は迷いなく答えた。
「今までに食べたことがない衝撃だったんです。僕の中でずっと消えなかった……あの味が。あの味に出会えたから、僕はあの作品を完成させることができたんです。だから、おねーさんは僕の恩人でもあります」
言葉が出なかった。
そんなふうに言われても、どうしていいのかわからない。
なのに、その眼差しの真剣さに、心臓が強く跳ねる。
(たった一度……それだけなのに。どうして、この人はここまで……)