溺れるほど甘い、でも狂った溺愛
「……今の、助けてくださったんですか?」
「当然でしょう。恋人が困ってたら、助けるに決まってます」
「こ、恋人って――」
「演技ですよ」
そう言って、ふっと笑う。
けれどその笑みの奥に、ほんの少しだけ別の色が混じっていた。
「……真白、って呼び方。嫌でしたか?」
呼び方。
たったそれだけのことなのに、胸の奥がざわめく。
「いえ……ただ、びっくりして」
「そう。なら、これからは“真白”で呼びます」
「え……どうして」
「なんでも」
彼は少し笑って、わたしを見下ろした。
「理由は真白が考えて」
やさしく言いながら、神城さんは視線を落とす。
一瞬、風が吹き抜けて、彼の髪が揺れた。
わたしは何も言えずに立ち尽くしていた。
“真白”と呼ばれた声が、鼓膜の奥に残って離れない。
それは名前なのに、どこか“縛り”のような響きをしていた。
歩き出した神城さんの背中を追いながら、
胸の奥で、何かがゆっくりと変わっていくのを感じた。
彼の声が、やさしい鎖のように心に絡みついて――
もう簡単には、ほどけそうになかった。