溺れるほど甘い、でも狂った溺愛


「……今の、助けてくださったんですか?」

「当然でしょう。恋人が困ってたら、助けるに決まってます」

「こ、恋人って――」

「演技ですよ」


そう言って、ふっと笑う。

けれどその笑みの奥に、ほんの少しだけ別の色が混じっていた。


「……真白、って呼び方。嫌でしたか?」


呼び方。

たったそれだけのことなのに、胸の奥がざわめく。


「いえ……ただ、びっくりして」

「そう。なら、これからは“真白”で呼びます」

「え……どうして」

「なんでも」


彼は少し笑って、わたしを見下ろした。


「理由は真白が考えて」


やさしく言いながら、神城さんは視線を落とす。

一瞬、風が吹き抜けて、彼の髪が揺れた。


わたしは何も言えずに立ち尽くしていた。


“真白”と呼ばれた声が、鼓膜の奥に残って離れない。

それは名前なのに、どこか“縛り”のような響きをしていた。


歩き出した神城さんの背中を追いながら、

胸の奥で、何かがゆっくりと変わっていくのを感じた。


彼の声が、やさしい鎖のように心に絡みついて――

もう簡単には、ほどけそうになかった。

< 100 / 182 >

この作品をシェア

pagetop