溺れるほど甘い、でも狂った溺愛


でも、なぜかその言葉が嬉しかった。


商店街を並んで歩く。

神城さんはいつもより少し饒舌で、店のガラス越しに映る花を見ては、


「この色、あなたの焼き色に似てる」とか

「これ、レモンケーキの香りに合いそうだ」なんて言って笑った。


そんな他愛のない会話が、どこか心地よかった。


やがて交差点に差しかかったとき、信号が変わる寸前に、人の波が押し寄せてくる。


ふと手に何かが触れた。

神城さんの手だった。


「――危ない」


彼は一歩、わたしの手を引いた。

ほんの数秒のこと。


けれどそのまま、手が離れなかった。


柔らかくて、少し温かい指先。

まるで、手をつなぐことが当然のように自然だった。


(……あれ?)


息をするたびに、心臓の鼓動が耳の奥で響く。


「すみません、つい……真白と手を繋ぎたかったからかもしれません」

「……っ」


神城さんは、まるで悪びれる様子もなく手を離す。

けれどその一瞬、彼の目が少しだけ笑っていた。

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