溺れるほど甘い、でも狂った溺愛


交差点の手前で、信号が赤に変わる。

立ち止まった瞬間、風が吹き抜けて、髪が頬にかかる。


神城さんの指先が、そっとそれを払った。


「……触れていいか迷いました」

「な、なんで……」

「まだあなたの彼氏ではないから……。いつ、僕を彼氏にしてくれますか?」


息が止まる。

触れた指先よりも、言葉のほうが熱かった。


信号が青に変わっても、足が動かなかった。


「……真白」

「はい」

「次は――ちゃんとデートに誘ってもいいですか?」


心臓が跳ねた。

一瞬の間があって、ようやく言葉を絞り出す。


「……考えておきます」

「うん、これで会えない間も僕のことを考えてくれますよね」


静かな笑みがこぼれる。


それがあまりに穏やかで、

“危うい”という言葉が、どこか遠くに霞んでいった。


夜になって部屋に戻ると、手のひらの感覚がまだ消えていなかった。


頬を撫でた指先の温度、

風の中で交わした視線。


どれも夢みたいなのに、確かにそこにあった。


(困るって言ったのに……)


なのに、嬉しかった。


心のどこかで、

この“感情”を、もう少し味わってみたいと思っていた。

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