溺れるほど甘い、でも狂った溺愛
わたしは答えに詰まる。
神城さんは小さく笑い、前を向いたまま言った。
「僕、嘘はあまり得意じゃないんです」
それだけの言葉なのに、春の風が頬を撫でるたび、胸の奥がざわついた。
「……困ります」
「ごめんなさい。真白を、困らせたくなってしまって」
その声は穏やかだった。
けれど、どこか甘く絡むような響きをしていた。
わたしは紙袋を抱え直し、足元を見つめる。
歩道の影が二つ、ゆっくりと寄り添って伸びていく。
「そんなふうに言われたら……意識してしまいます」
「してくれたなら嬉しいです。僕は、あなたを意識しない瞬間がないので」
心臓が痛いほど鳴る。
どうして、こんなにまっすぐ言えるんだろう。
「……ずるいです」
「そうかもしれません」
少し笑う声が、やわらかく響いた。
けれどその笑みの奥には、どこか本気の影が見えた。