溺れるほど甘い、でも狂った溺愛
「……なんか、悪い人って感じはしなかったんだけど。言葉も丁寧だったし、むしろ真っ直ぐすぎて怖いっていうか……」
「一番タチ悪いタイプじゃん、それ。優しい顔して距離詰めてくる系」
「そうなのかな……」
彩花は真顔でストローをくわえた。
「真白、優しすぎ。もしまた来たら、すぐ言いなよ。それこそ警察でも誰でも。夜に待ってるとか、普通に危ないから」
「うん……大丈夫。もう二度と会うことなんて、ないと思うけどね」
わたしは笑ってみせた。
けれど、胸の奥がざわつく。
(――本当に、そうだろうか)
一度しか会っていないはずの彼の声や瞳が、なぜか頭の片隅で、何度も繰り返し再生される。
彩花が話題を変え、仕事の愚痴をこぼし始めても、そのざらついた感覚だけは、どうしても消えなかった。