溺れるほど甘い、でも狂った溺愛


――そして数日後。

もう二度と会うことはないと思っていた“変な人”が、

再び、わたしの前に現れた。




カラン――。


ドアの鈴が鳴った瞬間、心臓が跳ねた。

手にしていたトングが、わずかに震える。


視線を上げると、そこにいたのは――やっぱりあの男だった。


黒のコートの襟を軽く立て、柔らかな笑みを浮かべて立っている。

あの日のように勢いよく近づいてくるわけではなく、今日は少し距離を取るように、静かに歩を進めていた。


(……また、来た)


胸の奥でざわめくものを感じながらも、わたしはできるだけ平然を装って声を出した。


「いらっしゃいませ」

「こんにちは」


低く落ち着いた声。

前回よりもずっと穏やかな響きだった。


「この前は、驚かせてしまってすみませんでした」


彼はそう言って、素直に頭を下げた。


思わず瞬きを繰り返す。

てっきりまた距離を詰めてくると思っていたから、その礼儀正しい仕草に拍子抜けしてしまった。

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